島の野良猫と、海を眺めに。
15 August 2021

バイク乗りに性別も世代も関係ない。ボーダレスにバイクを愛する女性ライダーが、子どもを産んでもなお、旅に出る理由。
CONCEPT
『小さな旅の記録~your solo trip~』<インタビュー連載>
"旅"をコンセプトに開発された「solo trip collection秋冬」のアイテム達を
記念して、新たなプロジェクトが始動。
otii®︎の理念に共感してくれた沢山のゲストに、
"旅"をテーマにお話を伺いました。
馴れ親しんだ日常から、ほんの少しだけ離れてみる。
たったそれだけで、そこには「小さな冒険」が溢れていました。
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noriさん |
島の野良猫と、海を眺めに。
ーーーー風光明媚なツーリング旅を発信しているnoriさん。バイクと出会ったきかっけを教えてください。
30歳をすぎた頃でした。ヘルメットから長い髪をなびかせて走る女性ライダーを見て、「かっこいいなあ」と憧れ、勢いで中型免許を取ることにしたんです。それまではまったく興味がなく、当時は恋人だった夫が乗っていたわけでもなかったんですけどね、本当に突然でした。
30代でバイクに乗ろうとしたことは、わたしにとって大きな決断でした。昔から厳しかった親には反対されましたし、私自身も「この歳でバイクの免許を取るのってどうなんだろう」なんて躊躇もあり。でも意志を曲げることはできず、親から「取るだけならいいけど、乗らないで」と免許取得については渋々OKをもらいました。
でも、取ったら当然乗りたくなるものですよね。すぐバイクを買ってしまいましたね(笑)。
ーーーーそのときはどんな楽しみ方をしていましたか?
バイク仲間がまったくいなかったので、近場を走ったり、たまにバイク屋さんのツーリングに誘ってもらったり、という程度でした。
ひとりで遠くへ走ることに、恐怖心もあったんです。「もし事故に遭ったらどうしよう」「坂道発進も上手にできないし」と、安全な道をただただ走るだけで、周りの景色を楽しむ余裕もありませんでしたね。
それに、買ってからすぐに冬になってしまったので、「寒いなあ。こりゃ乗れないなあ」と思って控えていたら、結婚、出産とイベントが続き、そのまままったく乗ることができなくなってしまいました。
ーーーーそれから現在、再度バイクにまたがるまでに、どんな心境の変化があったのでしょうか。
子育てが落ち着いた頃、自分自身について考える余裕ができて「なにかしたいな」と思ったとき、「もう一度、バイクに乗りたい!次は大型に乗りたい!」という気持ちがふつふつと湧き上がりまして。
バイクに跨るのは10数年ぶりです。試しにオートマのビッグスクーターに乗ってみて、慣れてきたらミッションに。でも、すごく怖かった。そのうち、地元のライダーが集うSNSに参加するようになり、仲良くなった人に練習に付き合ってもらうようになりました。ひとりじゃないことは、「何かあったら助けてくれる」という安心感が絶大ですからね。
そのうち大型免許取得を真剣に考えるようになりましたが、わたしは40代半ばになっていて、教習所は若い方ばかりですし、30歳のときよりも免許を取ることへの躊躇はありました。
そこで職場の一回り下の女性に、「大型免許を取ろうと思っていて」と話すと、「わたしもちょうど取りたいと思っていて、一緒に行こう!」と言ってくれたんです。彼女の存在が、大きな後押しになりましたね。
ーーーーご家族の反応はどうでしたか?
特に何も(笑)。関心がないというか、「お母さん、バイクに乗ろうと思っているんだ」「ふーん」みたいな(笑)。夫もまったく反対しませんでした。
いざ教習所通いをすると……大変でしたね。周りの目が光る、試験のあの緊張感ときたら……大人になってからは味わうことのないプレッシャーに耐えきれず、3回も試験に落ちてしまいました。
だから土日はずーっと練習の日々ですよ。バイクのうまい友達に付き添ってもらい、誰もいない広い敷地にペットボトルを置いて蛇行運転の練習をしたり。
その練習の甲斐があり、4回目でようやく取得し、2018年から大型に乗っています。いまの乗っているのはヤマハのMT-07ですが、決め手は、パワーがある一方で、転んだときに自分で起こしやすいコンパクトさです。
ーーーー大型を手に入れて、最初の旅はどちらへ?
四国です。友人と、カルスト台地目当てで行きました。広島から松山まで船で渡り、帰りはしまなみ海道を走りました。大きな橋の爽快感は、変えがたいものですよね。海、好きなんですよ。見渡す限りの海と風を、ダイレクトに感じながら走れるなんて、最高です。
特にバイクで走ると、「この景色を独り占めしているぞ!」という感覚に浸かることができます。
このときは宿泊しましたが、随所で美味しいもの食べて、いろんな景色を感じられて、「バイク旅、してるなー!」って感じでしたね。
ーーーー宿泊旅について、お子様の反応は?
特にないです。「あっそう。で、ごはんはどうするればいい?」くらいで(笑)。
ーーーーソロ旅も行きますか?
そうですね。よくひとりで行く場所がありまして、山口県の周防大島です。ヤシの木があったりして「瀬戸内のハワイ」と呼ばれる場所で、やっぱり海が間近に感じられる場所が好きなんですよねえ、島に渡る大島大橋はたまりません。
島にはきちんとめんどうを見てもらっている野良猫が4,5匹いて、わたしは彼らに会いに行っているんです。猫ちゃんたちに会って、彼らの隣で座って、海を見てのんびりする時間が好きなんですよね。
ーーーーどんなことを考えていますか?
ただただ、ぼーっとしています。日常を忘れさせてくれるから。竜崎温泉という温泉も湧いていて、そこには1度だけ入ったことがあります。
温泉といえば、島根県の美又温泉も偶然出会えたよき温泉でした。島根のほかの目的へ向かう道すがら、「こんなところあるんだ」と、そのまま立ち寄って入ったり。
最近はそういった旅先で、ありがたいことに声をかけてくださることが増えました。赤いラジエーターが目立つようで、「インスタの人ですよね?」と声をかけてくださるんです。そこで感じるのは、バイクという趣味を通じて、年齢性別関係なく、すぐに友達になれる、ということ。わたしは「30代だし……」「40代だし……」と一歩踏み出す勇気を出した過去がありますが、年齢なんてほんとうに関係ないんだなと。バイクって、こんなにも世代を超えた友達ができるものなのかと。
ライダーならではの非言語コミュニケーションってあるじゃないですか。道ですれ違ったら手を上げたりする。そういうのって、バイクしかできないコミュニケーションですよね。バイクに乗っているからこそ、まったく知らない人と、行き交うときに手を振り合える……すごくいいことだなあって思います。
ーーーー最後にうかがいます。noriさんにとって、旅とは?
「今を大事にすること」でしょうか。常々思うんですよね、「明日は何があるかわからない」と。だから、何が起こるかわからない未来を軸にせず、今を大事にしたいなと思うんです。人生は一度きりだし、バイクを知ってしまったら、乗らない人生はもう考えられい。ならば、今を楽しむために、わたしはバイクに乗るぞ!という感じです。
ーーーー「子どもがいるから」「年齢的に」などを自身で枷にせずに。
そうですね。だって、バイクに乗らないほうがストレスが溜まりますもん。運転は上手くないし、バイクについて詳しいわけでもないけれど、ただただ、好きなんです。乗ることが幸せなんです。
[ GUEST ]
NAME : mt_07496_nori
INSTAGRAM :@mt_07496_nori
[ INTERVIEWER / WRITER ]
NAME:有山千春
AREA : TOKYO
JOB : FREELANCE WRITER
PROFILE:制作会社、出版社を経て2011年よりフリー。主に週刊誌、月刊誌、書籍構成。行くなら最果てと、猥雑な小路。