絶景の山頂で、栗ごはん。人生を変えた”ありのまま”の登山
20 August 2021

“山ガール”がたどり着いたのは、心地よく飾らない、いま。北アルプスに魅せられた彼女が、仕事を辞めて山小屋スタッフになるまで。
CONCEPT
『小さな旅の記録~your solo trip~』<インタビュー連載>
"旅"をコンセプトに開発された「solo trip collection秋冬」のアイテム達を
記念して、新たなプロジェクトが始動。
otii®︎の理念に共感してくれた沢山のゲストに、
"旅"をテーマにお話を伺いました。
馴れ親しんだ日常から、ほんの少しだけ離れてみる。
たったそれだけで、そこには「小さな冒険」が溢れていました。
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nochiiさん |
絶景の山頂で、栗ごはん。人生を変えた“ありのまま”の登山。
ーーーーインスタグラマー・nochiiさん。ナチュラルな登山スタイルと日々の生活を発信していますが、登山歴はどれほどでしょうか?
初登山は、今から約8年前です。それまで山は、登るものではなくて、“なんとなく眺める”ものでした。
ーーーーご出身が山に囲まれた場所なのですね。
そうですね。山梨に生まれて、家のベランダから鳳凰三山や甲斐駒ヶ岳が、少し遠くに富士山が見える場所で育ちました。特に冬の富士山は飽きることなく毎日のように眺め、「ああ、本物の富士山だなあ。これを毎日拝めるなんて、すごいことだなあ」と毎日のように感動する威力がありましたね。“本物の富士山”ってなにって感じですが(笑)、それしか言いようがない風景でした。山は、そうやって眺める対象で、まさかそこに登るなんて概念すらなかったんです。
ーーーー“眺めるもの”だった山に、どうして登ろうと思ったのでしょうか?
私には姉と兄がいまして、姉が登山を趣味にしていたんです。
これはちょっとした自慢なんですが、うちの兄弟は本当に仲が良くて、小さい頃から毎日一緒に遊んでいました。家の前でサッカーをしたり、買っていた犬の散歩のために、廃校になった小学校まで走っていったり。その学校の裏山の、15分ほどで山頂に着く通称「兜山」に登り、遮るものがない場所でドーーンとした富士山を一緒に眺めたり。
だから最初はその感覚の延長だったのかもしれません。姉が登山服やザックも揃えちゃって、なにやら楽しそうだぞと。「私もマネしたい!そういう格好で行きたい!」と、完全なノリでした。カラフルな登山服にピンクの靴で、「めっちゃかわいい!」って、買ったそばから写真を撮ったり(笑)。姉と一緒に装具を買い揃える過程が楽しかったんですよね。
ーーーー初登山はどちらへ?
姉が選んだ、山梨の大菩薩嶺です。低山なので、姉妹で気ままにおしゃべりしながら、往復3時間で登れました。
ーーーー初めての登頂、どうでした?
その日は晴れていて、富士山が見えて、アルプスの山々が見えて、北岳や塔ノ岳があり……家から眺める景色と、山頂から見える景色はまったく違うんだな、と思いました。
ーーーーこの日を機に、登山にハマるように?
いえ。楽しいとは思いましたが、登る仲間がいなかったので、「姉に誘われたら行く」という状況が4年間、年に2〜3回のペースで続きました。
本格的にハマるようになったのは、インスタを始めてからです。インスタに溢れる登山情報を収集して「こんな山もあるんだ」と知ることができたり、「こんな人が登っているんだ」とフォローをするうちに「今度一緒に登りましょう」となり。
そうやって知り合った人に、北アルプスの木曽駒ヶ岳に連れて行ってもらってから……山に対する印象ががらりと変わったんです。
簡単に登れる低山しか経験がなったなかで見た、標高2,956mの山頂からの景色は、桁違いな壮大さでした。すぐそこには格好よくとんがった宝剣岳の山頂が迫り、アルプスの稜線が視界いっぱいに広がって、こんな世界があるのか、と。
「もっともっと、いろんな景色を見てみたい」と、山欲が急激に湧き上がり、この日を境に週1〜2回のペースで登山するようになったんです。
比例してインスタの更新頻度が上がるとフォロワーさんも増え、特に仲の良い仲間ができるとさらに登山頻度が加速しました。
ーーーーこれぞインスタの効力、ですね。
みなさん波長の合ういい人ばかりで、長く付き合っています。
一昨年、仲間の一人と初めて北アルプスへ縦走に行きました。目的は双六岳や鷲羽岳、行程はすべて彼女が組んでくれましたが、台風の影響による土砂崩れで道中通行止めになり、登山スタートが12時になってしまって。
ーーーー初めての縦走で、早くも予期せぬ出来事が。
はい、目的の山小屋までたどり着けないことがわかった時点で、手前の山小屋に宿泊予約電話を入れるために電波のある場所探して、やっと電話して約することができました。
その日は、「暗くなる前に早く登らなきゃ」というプレッシャーと、初めて経験する荷物の重さもあり、スピードがまったく上がらず、焦りばかりが募り辛かった。メンタルをやられましたね。
とにかく荷物の重さが辛んです。水は、調達できる小屋までの距離を計算して1リットル持参し、極力減らしても13キロもあって。肩がちぎれそうで、前かがみで歩き、何度ザックを放り投げたいと思ったことか。
ーーーー修正
はい、自然の厳しさを体で覚えましたね。3日目は双六岳と樅沢岳の鞍部にある双六小屋にお昼前に着き、他のお客さんとゆっくり会話する機会ができまして。2人組の方と意気投合して、4時間は話していたかな(笑)。それから一緒に登山する仲になり、今では「師匠」と呼び、冬山にも連れていってもらいました。
そして去年は、兄と縦走に行きました。今度は私が行程を組み、水晶岳と雲ノ平山荘に行くことにして、そうすると黒部五郎岳に抜けるコースがいいかなと。
ーーーー焦燥感が伝わります……。
一転して2日目は、次に登る山も望めるほどの快晴で、 三俣蓮華岳と鷲羽岳の鞍部にある三俣山荘を目指しました。この日の夜は山小屋前のテント場でテン泊する予定でしたが、雷予報が出て次第に天気も怪しくなり。夜、テントを張り終えて中にいると、ポツポツと雨が降り、ごろごろと空が鳴り、遠くに稲妻が落ちているのが見えました。
ーーーー天候などいかがでしたか?
それがずっと快晴で、自分たちのコンディションもよくて、3泊4日の行程を2泊で終えたんです。初めて人をアテンドする立場でしたが、ヤマップというGPSアプリを逐一確認しながら慎重な方向確認も怠りませんでした。
もっとも目に焼き付いているのは、最終目的地の黒部五郎岳に向かう最後の上り坂、通称「黒部五郎カール」からの絶景です。
周囲の山々が迫るようにまわりを囲み、その中央を小さな人間が歩いていく。まるでオーケストラに放り込まれたような感覚というか、兄とふたり、「え……」と絶句したほどの壮麗さでした。
ーーーーインスタグラムを見ると、山頂で食べるごはんがとても美味しそうです。このときは何を食べましたか?
お湯をかけるだけでできるトレイルフード『the small twist』です。ちょっとお高いけれど、すっごく美味しいから「頑張ったご褒美に」という気持ちで頬張りました。
毎回絶対に持っていくのは、ミレービスケット。食べないと頑張れなくて(笑)、仲間に「また食べてるの?」と呆れられます(笑)。
ーーーーむ、ちょっとまってください。インスタを遡ると、山頂でおでん食べてる!
セブンイレブンで買いました(笑)。寒い季節だったので、「温かいものが食べたいね。おでんの季節だね。よしおでんにしよう」と。
ーーーーシンプル(笑)。過熱器具はバーナーですか?
そうですね。あとメスティンを持っていけば、なんでもできます。
ーーーーこれまで、もっとも印象深い“山グルメ”はなんですか?
「山でそんなことやってるんじゃないよ!」と叱られるかもしれませんが……釜を持っていき、栗ご飯を作ったことがあります。
ーーーー前代未聞(笑)。
釜飯にハマっていた時期だったんですよね。例によって「秋だね。栗が美味しい季節だよね」と。前日に栗を柔らかく仕込んでおき、山頂でザックから釜を取り出したときの仲間の顔が忘れられません。「うそ!? 釜!? 重かったやろ!?」と、まさか釜を持ってくるとは思っていなかったと思います。
食べるのが好きなんですよね。プラス、山で食べるともう何倍も美味しいですから。
ーーーー最後にうかがいたいのですが、どんなシーンでも、まっすぐに山と向き合うnochiiさんが思う、“旅”とは?
ありのままでいること、でしょうか。自分が行きたい場所で、食べたい物を食べる。ただただ、飾らずに。
山への旅は、日常のイライラから開放され穏やかになれる一方で、サバイバル能力も働かせないといけず、臨機応変になれますね。
[ GUEST ]
NAME : nochii
INSTAGRAM : @pono087
[ INTERVIEWER / WRITER ]
NAME:有山千春
AREA : TOKYO
JOB : FREELANCE WRITER
PROFILE:制作会社、出版社を経て2011年よりフリー。主に週刊誌、月刊誌、書籍構成。行くなら最果てと、猥雑な小路。