天職を辞しても山に向かう理由。
21 August 2021

山に登り雄大な景色や自然の一瞬の表情を強く美しい写真で記録するいのみんさん。医療の現場で働く最中、自分を見つめ直す気きっかけとして山小屋で働く一大決心をされたそうです。
CONCEPT
『小さな旅の記録~your solo trip~』<インタビュー連載>
"旅"をコンセプトに開発された「solo trip collection秋冬」のアイテム達を
記念して、新たなプロジェクトが始動。
otii®︎の理念に共感してくれた沢山のゲストに、
"旅"をテーマにお話を伺いました。
馴れ親しんだ日常から、ほんの少しだけ離れてみる。
たったそれだけで、そこには「小さな冒険」が溢れていました。
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いのみんさん |
天職を辞しても山に向かう理由。
ーーーー5年前に一人で訪れた屋久島をきっかけに登山を始められたそうですが、なぜ一人で屋久島に行くことにされたのでしょうか?
もともと山や自然にものすごく興味があったわけではなく、最初はバックパッカーになりたかったんです。
でも当時の私は一人で遠出をした経験がなくて、職場の先輩に「一人旅もしたことない人がいきなり海外なんて死ぬよ!」って止められたんです(笑)。その先輩に、「まずは何も考えずに一人で屋久島に行きなさい」と勧められたのがきっかけで、夏休みを利用してまずは屋久島に一人で行くことにしました。
ーーーーその屋久島旅行が山との出会いになったんですね。
はい。でもタイミングが悪く雨続きで、結局山には入れずに最終日を迎えてしまったんです。最終日だけは快晴だったんですが、飛行機は予約していたので山に行くことも出来ず。ぼんやり空を眺めていたら、たまたま隣にいた山岳ガイドのおじさんに声をかけられたんです。「一人分だけ今日の枠が空いてるけど、くる?」って。
飛行機の出発時刻は迫っていたんですが、このまま何もしないままでは帰れないと思い飛行機をその場でキャンセル、道具を一式レンタルして山に行くことにしました。そこで見た景色に、本当に圧倒されてしまったんですよね。海外に行かなくても、自分の知らない世界があるんだって気付かされました。
ーーーーそもそもなぜバックパッカーになりたいと思ったのでしょうか?
一番の理由は、自分の世界を広げたいと思ったからですね。23歳の時、友人の誘いで石垣島のマラソン大会に参加することになり、現地の民宿でケニアで医療ボランティアをするNGO法人の代表の方とお話をする機会があったんです。
同じ医療に携わっていながら、自分の知らない世界や現場のお話にすごく衝撃を受けたました。
自分もこんな人になりたい、看護のボランティアをしながらバックパッカーとして生活できたらなと思ったんです。
ーーーーその足がかりとして決めた屋久島一人旅が、いのみんさんと山を繋げるきっかけになったんですね。
日本にも自分の知らない素晴らしい景色があるのなら、まずはそういう場所に行ってみようと思ったんです。
最初は一緒に山に行ってくれるような知人もいなかったので自分なりに調べて山に行きました。山は危険と隣り合わせなので、登る前は毎回ものすごく不安に襲われます。でも、無事に下山できた時には言葉ではうまく言い表せない達成感と自分自身の成長を感じられるんです。それがまた次の山への原動力にもなっているのかもしれないですね。
ーーーーこれまでに登った山で強く印象に残っている山はありますか?
強く印象に残っているのは初めて縦走をした燕岳、槍ヶ岳ですね。2泊3日をかけて北アルプスの山麓を40km近く歩くコースです。日帰り登山では下山する時に名残惜しさを感じていたので、長い時間山の中で自然に埋もれる体験は格別でした。ただ、今までの人生でこんなに長距離を歩くことはなかったので、そこは本当に辛かったです。辛すぎて、登山道を泣きながら歩く時間もありましたね(笑)。でも、山は途中で辞められないですから。
ーーーーそういった辛さすらも山の魅力でしょうか。
そうですね。衣食住を全てバックパックに詰め込んで、自分の足で歩くこと。初めは不安だし登れば辛いけど、その先で出会える思わず涙が出るような景色や下山後の達成感はどことなく憧れていたバックパッカーに近い要素なのかなと思います。
ーーーー屋久島へのご旅行や登山など、なかなかお一人で
は勇気がいりそうなことばかりですが昔からアクティブな性格だったのでしょうか?
いえ。昔の私は何をするにも不安が先行してしまって、一人では何もできない人間だったんです。
石垣島のマラソン大会も、ランニング好きの友人に連れられて行っただけで観光気分でした。でもあの日の民宿での出会いで、変わりたいと強く思うようになったんです。
思えば、登山を始める時に周りに詳しい人がいなかった状況は、一人じゃ何もできなかった自分にとっては好都合だったのかなと思います。
ーーーーその中で得た経験が、今につながっていると。
今でも、何かをやろうと決めた時はいい意味で深く考えないようにしています。深く考えると不安がどんどん大きくなって、諦めてしまうんです。
登山を始めた頃、レンタルビデオ屋さんで偶然出会った「イエスマン」という映画が自分のバイブルのような存在で。今まではどんな誘いもNOと断ってきた主人公が、どんなことにもYESと答えないといけない宗教に入ったことで人生が変わっていくコメディ映画なんですが、観終わった後に「これはものすごい教訓を得たんじゃないか」と思いましたね。何事も経験からだと思えるようになってからは、実際に良い体験や出会いが増えたような気がします。
ーーーー今年の夏はお仕事を退職されて山小屋で働くことにされたとお伺いしました。
はい。医療に携わる仕事をしているので、コロナが流行してからは山に登ることは自粛していました。山に行かない生活に慣れてきている自分に不安もあったのかも知れません。
はじめは山岳看護師をになることを考えたのですが、医療だけではないスキルが必要だったりするので、まずは山小屋で働いてみることにしました。電波が入らない山小屋で働きながら、自分が何を感じるのか。いい意味で、行動してから考えるつもりです。行動の先にある未知のものがいつも私の原動力なんです。