バイクは愛馬。だから、ひとり旅もひとりじゃない。
16 August 2021

出会いは、ハリウッド映画。俳優のアクションに華を添える彼らに一目惚れ。憧れを相棒に迎えた現在、ひとりでも仲間とも、颯爽と旅に繰り出す日々。
CONCEPT
『小さな旅の記録~your solo trip~』<インタビュー連載>
"旅"をコンセプトに開発された「solo trip collection秋冬」のアイテム達を
記念して、新たなプロジェクトが始動。
otii®︎の理念に共感してくれた沢山のゲストに、
"旅"をテーマにお話を伺いました。
馴れ親しんだ日常から、ほんの少しだけ離れてみる。
たったそれだけで、そこには「小さな冒険」が溢れていました。
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おみつさん |
バイクは愛馬。だから、ひとり旅もひとりじゃない。
ーーーーロングヘアをなびかせ、愛車と日本を駆け巡るおみつさん。バイクと出会ったきっかけを教えてください。
20歳頃、映画『バイオハザード ザ・ファイナル』でミラ・ジョボビッチが真っ赤なバイクを飛ばしているのを見たり、『ミッション・インポッシブル/ローブ・ネイション』でトム・クルーズとバイクアクションを演じるレベッカ・ファーガソンを見て、「かっこいい!」と震えたのがバイクを意識したきっかけです。
当時一緒に住んでいた両親に「バイクに乗りたい」と打ち明けると、「危ないから乗らないで」の一点張り。わたしもわたしで「ちゃんとするから大丈夫だよ!」って、根拠のない自信で応戦して。
これはもう実家を出ないと乗れないなと実感し、自立して25歳くらいで、ようやく中型免許を取ったんです。
ーーーー1台目を教えてください。
MT25です。特にライトが、「なにこの形!」としびれるほどかっこいいと思ったので(笑)。
ーーーー最初はどちらへ行きましたか?
これは滋賀県民特有かもしれませんが、とりあえず琵琶湖を一周しました。いわゆる“びわいち”です。それまで琵琶湖は、「車で湖畔道路を走るとき、たいてい空いているから目的地まで早く行ける道」という認識しかなく(笑)、魅力を感じたことはありませんでした。でも、バイクで走り初めて、「琵琶湖って、こんなにきれいに見えるのか!」と実感したんです。
これはいまも旅先で必ず思うことなんですが、このときも琵琶湖の景色がものすごく近いことに驚きました。それが車よりも遥かに近く、“道”に対する価値観ががらりと変わりました。
ーーーーそれから、どれくらいのペースで走るようになりましたか?
毎週のように、です。それから時間を置かず2台目の大型に乗り換えました。中型で高速を走っているときの安定感のなさに、不安を感じまして。大型は、1台目はバイク旅をコンセプトにしたカワサキのニンジャ1000、2台目の現在はS1000RRに乗っています。
ーーーーこれまでのバイク旅で、印象に残ってる場所はどちらでしょうか。
免許取得から2年目、ニンジャ1000で行った熊本の阿蘇山ですね。あそこはとんでもなかった。空を飛んでいる感覚になるんですよ。そのときは目的地はもちろん、道中も思い出深いですね。あの日、仕事が夜7時に終わり、「走れるところまで行ってみよう」と、宿泊場所もノープランのまま家を出たんです。というか、いつもそうなんですが(笑)、このときも「宿はなんとかなるでしょう」という心持ちでした。
それで、本州から四国の徳島まで走り続け……「ほんまになにもないやん!」と(笑)。舐めてましたね。「まだこの先もあるだろう」と思い通りすぎた宿が最後で、それから3時間くらい闇を走り続けて。光を見つけるたびに「宿あった!?あ、コインランドリーか……」を繰り返し、深夜2時をすぎた頃。真っ暗のなか、ぽつんと光が見え、「やっと宿だ!あったー!」。ようやく寝転べる場所を見つけました。
そんな目に遭いつつも、今も宿は取りません。当てもなく走り続けることが、“旅感”を盛り上げてくれますから。
ーーーーひとりきりの深夜の道、恐怖心はありませんか?
徒歩はもちろん、車でも恐怖心はあると思います。でも、バイクは大丈夫なんですよね。“ひとり”という感じがしないんです。バイクは生き物というか、馬っぽいというか、相棒なので、「一人で走っている」というつもりじゃないんだと思います。
あとは、福島の磐梯山に行ったときのこともよく覚えていますね。これもまったく無計画で、出発前日に荷物をバックパックに詰めました。10月なので防寒具もしっかりと入れて。
昼頃に出発し、高速は使わないと決めていたので下道を走り続けました。いったん伊豆を満喫し、翌日の夜に栃木に入ったところであまりの暗闇に恐怖心を覚え、さすがに高速を許しました。
福島に着いたころには、とんでもない寒さで、雪も降っていたんです。たった数時間走っただけなのに、同じ日本でこんなにも空気が違うのか、と、ただただ驚きました。これは車じゃわからない感覚ですよね、SAで降りたときに「寒いな」と思う程度ですから。乾燥した刺すような空気を全身で浴びることができるのは、バイク旅特有だと思います。
ーーーー磐梯山はいかがでしたか?
磐梯吾妻スカイラインを入ることが目的でしたが、岩がごろごろ転がり、火山の煙が地面から揺らめいて、異国な景色でした。それこそ、バイオハザードな世界観でしたね。
ーーーーおひとりで旅に出ることが多いのでしょうか。
女友達と2人で行くこともありますよ。わたしが大型に乗り出した頃、インスタグラムで知り合った、「これから大型に乗ろうかと思っている」という子で、ずーっと仲良くしています。
2人だと、旅行感覚で行けて楽しいですよね。美味しい物を食べたり、かわいいカフェに立ち寄ったり。
ーーーー 一方で、ひとり旅の良さはいかがでしょう。
景色に夢中になれることですね。最初の頃は早く目的地に着くことを前提に、高速に乗ることが多かったんです。ただ前だけを見て、淡々と進んでいた。
でもいまは下道ばかり。土地の良さをダイレクトに感じられることに気づいたから。景色を楽しみながら進み、疲れたら休憩して、気持ちの良い自然の中で体を休めて。それすらも“旅”なんだなと思います。
ーーーーひとり旅での、印象的な人との出会いはありますか?
長野県のビーナスラインにふらっと行ったとき、山梨県のライダーの方が経営している桃園も目指してみたんです。着くと、同じライダーということでとてもあたたかく迎えてくださいました。わたしのバイクのライトが壊れていたのを見て、すぐに直してくださったり。かわいい柴犬と遊ばせてもらったり。バイクに乗っていなかったら出会えなかったんだなあ、と思うと、ライダーで良かったなと実感する瞬間でした。
ビーナスラインはインスタで見て行きたいと思っていたところでしたが、体感した澄んだ空気は、行かないとわからなかったことです。「8月」と一言で言っても、ビーナスラインの上と下では10度近く気温が違うし、同じ日・同じ日本とは思えない、五感を震わせる風やにおいは、バイクだからこそ感じられます。
特ににおいって、全然ちがいますよね!山は山のにおいがするし、雨が降りそうなにおい、夏のにおい、冬のにおい、それぞれ全然違いますよね。
ーーーー充実したバイクライフを送るなか、いま、ご両親の「危ないから乗らないでほしい」という言葉を振り返ると、どう思いますか?
乗る前よりも「死と隣り合わせ」を実感しています。転んだら死ぬな、とか、高速道路上に何かが落ちていたら終わりだな、とか、いつも乗りながら思っていますし、今まで転んだことはありませんが、両親や周囲から「心配される」度合いの、桁が違うんだな、と。家を出て、帰ってくるまで、ずっとわたしの無事を祈っていてくれるんです。その気持を受取ると、「わたしが危ないことをしているんだな」という実感はありますね。だから、半袖でなんて、そわそわして乗れないです。昔のわたしは「半袖のほうが気持ちいいし」なんて気持ちもありましたが、乗るたびにそんなことはできなくなります。
ーーーー最後にうかがいます。おみつさんにとって、“旅”とは?
生きる時間は限りがあるし、それがいつ終わってしまうかもわかりません。ならば、なるべくいろいろな土地の良さを知り、景色を見て、人と触れ合って、最期に「ここに行っておけばよかった」という後悔をなくしていくことが、わたしにとっての“旅”です。それを“思い出”にするのではなく、人生の一部にしていきたいなと思います。
[ GUEST ]
NAME : おみつ
INSTAGRAM :@032_s1000r
[ INTERVIEWER / WRITER ]
NAME:有山千春
AREA : TOKYO
JOB : FREELANCE WRITER
PROFILE:制作会社、出版社を経て2011年よりフリー。主に週刊誌、月刊誌、書籍構成。行くなら最果てと、猥雑な小路。